株式譲渡 vs 事業譲渡|税務・許認可・従業員継承の違いを完全比較【2026年】
「会社をM&Aで売却するけど、株式譲渡と事業譲渡、どっちがいい?」
「税金が安いのはどっち?許認可は引き継げる?」
「赤字でも売却できる方法は?」
M&Aで会社を売買する際、最も重要な選択が「株式譲渡」と「事業譲渡」のどちらを選ぶかです。この2つは、手続き・税務・許認可・従業員の引き継ぎなど、ほぼすべての面で大きく異なります。選択を誤ると、税金が数千万円違う・許認可を失う・従業員が離反するなど致命的な結果を招くこともあります。
この記事では、株式譲渡と事業譲渡の違いを、税務・法務・実務の3つの観点から完全比較。あなたのM&Aに最適な手法が分かります。
この記事で分かること:
- 株式譲渡と事業譲渡の根本的な違い
- 税務面での違い(売り手・買い手それぞれ)
- 許認可・従業員・契約の引き継ぎ方法
- 業種・状況別のおすすめ手法
- 失敗事例と成功事例
「M&Aの手法選びで失敗したくない」「税理士に相談する前に基本を押さえたい」と考える経営者の方は、最後までお読みください。
株式譲渡と事業譲渡の根本的な違い
株式譲渡とは
会社の株式(オーナー権)を買い手に売却する手法。法人格はそのまま維持され、買い手は会社全体(資産・負債・契約・従業員すべて)を引き継ぎます。
イメージ:「会社まるごと丸ごと譲渡」
事業譲渡とは
会社が保有する事業の全部または一部を買い手に売却する手法。法人格は売り手側に残り、買い手は引き継ぐ事業の資産・負債・契約を個別に取得します。
イメージ:「会社の中の特定事業だけ切り出して譲渡」
根本的な違いを表で比較
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 譲渡対象 | 会社の株式 | 事業の資産・負債 |
| 法人格 | そのまま維持 | 売り手に残る |
| 許認可 | 原則引き継ぎ | 新規取得が必要 |
| 従業員 | 自動的に継承 | 個別に再雇用 |
| 契約 | 自動的に継承 | 個別に承諾必要 |
| 簿外債務リスク | あり(買い手) | なし(買い手) |
| 手続きの複雑さ | シンプル | 複雑 |
税務面での違い|売り手の税金
株式譲渡の場合(売り手)
株式譲渡では、売り手(株主)に譲渡所得税が課税されます。
- 税率:20.315%(所得税15% + 復興特別所得税0.315% + 住民税5%)
- 分離課税のため、他の所得と分離して計算
- 譲渡対価 – 取得費 – 譲渡費用 = 譲渡所得
計算例:株式を5,000万円で売却(取得費1,000万円)の場合
- 譲渡所得 = 5,000万円 – 1,000万円 = 4,000万円
- 税金 = 4,000万円 × 20.315% = 約813万円
事業譲渡の場合(売り手)
事業譲渡では、会社(法人)に法人税が課税されます。さらに譲渡対価が法人に入るため、株主が手元にお金を入れるには別途配当・減資が必要です。
- 法人税率:約30〜34%(実効税率)
- 譲渡益(譲渡対価 – 譲渡資産の簿価)に課税
- 株主が現金化するには配当(さらに所得税)が必要
計算例:事業を5,000万円で売却(譲渡資産簿価1,000万円)の場合
- 譲渡益 = 5,000万円 – 1,000万円 = 4,000万円
- 法人税 = 4,000万円 × 30% = 約1,200万円
- 残額3,800万円を配当 → 配当所得税約20% = 約760万円
- 合計税負担:約1,960万円
売り手の税負担比較
同じ5,000万円の取引でも、税負担は株式譲渡が圧倒的に有利(813万円 vs 1,960万円)。これが「売り手は株式譲渡を望む」理由です。
税務面での違い|買い手の税金
株式譲渡の場合(買い手)
買い手は株式の取得費として支出。取得費は資産計上され、損金にはなりません。
- 取得費の節税効果なし(資産計上のみ)
- のれん代が発生しないため、減価償却もなし
- 後日の株式売却時まで税効果は得られない
事業譲渡の場合(買い手)
買い手は事業譲渡でのれん代(営業権)を計上できる場合があり、5年間で減価償却できます。
- 譲渡対価 – 譲渡資産の時価 = のれん代
- のれん代を5年間で均等償却 → 損金算入で節税効果
- 消費税が課税される(取引対価の10%)
計算例:事業譲渡で5,000万円支払、譲渡資産時価3,000万円の場合
- のれん代 = 5,000万円 – 3,000万円 = 2,000万円
- 5年間で年間400万円ずつ損金算入
- 5年間の節税効果 = 400万円 × 30% × 5年 = 600万円
買い手の税負担比較
買い手にとっては、事業譲渡が税務上有利(のれん代の損金算入)。これが「買い手は事業譲渡を望む」理由です。
許認可の引き継ぎ|業種別の違い
株式譲渡の場合
会社(法人格)が変わらないため、許認可も原則そのまま継承。ただし、責任者の変更届などは必要です。
- 建設業許可:継承(経営業務管理責任者の変更届)
- 宅建免許:継承(専任宅建士の変更届)
- 保険調剤薬局指定:継承(管理薬剤師の変更届)
- 運送業許可:継承(運行管理者の変更届)
- 介護事業所指定:継承(管理者の変更届)
事業譲渡の場合
許認可は原則として引き継がれず、買い手が新規取得する必要があります。取得期間は2〜6ヶ月かかるため、譲渡時期の調整が必要です。
- 建設業許可:新規取得(2〜3ヶ月)※2020年改正で事業承継認可制度あり
- 宅建免許:新規取得(1〜3ヶ月)
- 保険調剤薬局指定:新規取得(2〜3ヶ月)
- 運送業許可:新規取得(3〜6ヶ月)※2020年改正で事業承継認可制度あり
- 介護事業所指定:新規取得(2〜3ヶ月)
従業員・契約の引き継ぎ
株式譲渡の場合
会社(法人)が変わらないため、従業員・契約はすべて自動的に継承されます。個別の同意は不要です。
- 従業員:雇用契約はそのまま継続
- 取引先契約:自動的に継承
- 不動産賃貸契約:継承(一部、契約更新時に貸主の承諾が必要なケースあり)
- 銀行融資:継続(個人保証は新オーナーへの切り替え交渉が必要)
事業譲渡の場合
事業譲渡では、従業員・契約は個別に承諾が必要。承諾が得られないと、その従業員・契約は引き継げません。
- 従業員:個別に再雇用契約が必要(同意がない場合は移籍できない)
- 取引先契約:個別に相手方の承諾が必要
- 不動産賃貸契約:原則、貸主の承諾が必要
- 銀行融資:原則、引き継ぎ不可(買い手で新規借入)
簿外債務リスクの違い
株式譲渡の場合
会社をまるごと引き継ぐため、簿外債務(過去の労務トラブル・税務リスクなど)も買い手が引き継ぐ。これが買い手にとって最大のリスクです。
典型的な簿外債務:
- 未払い残業代
- 過去の税務調査未指摘事項
- 製品瑕疵による損害賠償リスク
- 環境汚染の補償義務
- 過去の労災事故の補償義務
事業譲渡の場合
事業譲渡では引き継ぐ資産・負債を契約で明示するため、簿外債務は引き継がれません。買い手にとって安全な手法です。
業種・状況別のおすすめ手法
株式譲渡が向いているケース
- 許認可が重要な業種:建設業・宅建業・運送業・調剤薬局・介護事業所
- 従業員数が多い会社:個別同意の手間を省きたい
- 取引先契約が複雑な会社:契約引き継ぎを自動化したい
- 売り手の税負担を最小化したい:20.315%の譲渡所得税で完了
事業譲渡が向いているケース
- 事業の一部だけ売りたい:複数事業から特定事業のみ切り出し
- 簿外債務リスクが心配な会社:買い手の安全確保
- 赤字会社の事業:黒字事業のみ切り出して売却
- 買い手にのれん償却の節税メリットを与えたい
- 個人事業主から法人への譲渡:法人格がないので株式譲渡できない
業種別の傾向
| 業種 | 主流な手法 | 理由 |
|---|---|---|
| 製造業 | 株式譲渡 | 従業員・取引先・許認可が複雑 |
| 建設業 | 株式譲渡 | 建設業許可の継承が容易 |
| 不動産業 | 株式譲渡 | 宅建免許の継承 |
| 飲食店(小規模) | 事業譲渡 | 店舗単位の譲渡 |
| 美容室(小規模) | 事業譲渡 | 店舗単位の譲渡 |
| IT企業 | 株式譲渡 | 従業員・知財の継承 |
| 医療法人 | 株式譲渡(出資持分) | 法人格の継続 |
| 個人診療所 | 事業譲渡 | 法人格がない |
| 調剤薬局 | 株式譲渡 | 保険指定の継承 |
| 運送業 | 株式譲渡 | 運送業許可の継承 |
株式譲渡 vs 事業譲渡の選択における交渉ポイント
売り手と買い手の利害対立
- 売り手の本音:株式譲渡(税負担が軽い・手続き簡単)
- 買い手の本音:事業譲渡(簿外債務リスク回避・節税効果)
典型的な妥協案
- 株式譲渡+表明保証:買い手は簿外債務発覚時に売り手に賠償請求権を持つ
- 株式譲渡+デューデリジェンス徹底:DDで簿外債務リスクを洗い出して買収価格に反映
- 事業譲渡+譲渡対価アップ:売り手の税負担増を譲渡対価で補填
専門家のサポートが必須
手法選択は税務・法務・実務すべてに影響するため、顧問税理士・M&Aアドバイザー・弁護士と相談しながら進めることが必須です。
株式譲渡・事業譲渡の手続きの流れ
株式譲渡の手続き
- 基本合意契約(LOI)の締結
- デューデリジェンス(買収監査)の実施
- 株式譲渡契約書(SPA)の締結
- 株主総会の特別決議(譲渡制限会社の場合)
- 株式譲渡実行(対価支払い・株式名義書換)
- 役員変更登記・各種変更届
所要期間:3〜6ヶ月
事業譲渡の手続き
- 基本合意契約(LOI)の締結
- デューデリジェンス(買収監査)の実施
- 事業譲渡契約書の締結
- 株主総会の特別決議(譲渡対象が事業の重要部分の場合)
- 従業員への個別説明・再雇用契約
- 取引先・契約先への通知・承諾取得
- 許認可の新規取得申請
- 事業譲渡実行(対価支払い・資産移転)
所要期間:6〜12ヶ月(許認可取得期間含む)
株式譲渡 vs 事業譲渡の成功事例3選
事例1: 製造業オーナーが株式譲渡で5億円売却(Aさん・68歳)
関西の精密部品メーカーAさんは、株式譲渡で同業大手に5億円で売却。譲渡所得税約8,000万円を支払い、手元に4.2億円が残りました。事業譲渡だと税負担は約1.5億円になっていたため、株式譲渡を選択して7,000万円の節税。
事例2: 飲食チェーンが赤字店舗を切り出して事業譲渡(Bさん)
関東の飲食チェーンBさんは、不採算の3店舗を事業譲渡で他社に売却。法人格は維持しつつ、不採算事業のみ切り離しに成功。買い手は店舗事業のみ取得し、簿外債務リスクを回避できました。
事例3: 建設業の許認可を活かす株式譲渡(Cさん・70歳)
東北の建設業Cさんは、特定建設業許可・経審評点850という許認可価値を活かすため株式譲渡を選択。3億円で地方ゼネコンに売却。事業譲渡なら買い手が許可取得に2〜3ヶ月かかり、その間営業停止のリスクがあったため株式譲渡が最適でした。
株式譲渡・事業譲渡の失敗事例3選
失敗1: 株式譲渡後に簿外債務発覚(買い手が損害)
製造業を株式譲渡で取得した買い手企業。譲渡後に過去の労災事故の補償債務2,000万円が発覚。表明保証条項が不十分で、買い手が全額負担。DDの不徹底が原因。
失敗2: 事業譲渡で従業員の半数が離職
飲食チェーンの一部事業を事業譲渡。従業員への説明が不十分で、再雇用拒否者が半数を超え、譲渡後の事業継続が困難に。事前の従業員ケアが必須でした。
失敗3: 事業譲渡で許認可取得遅延
運送業の事業譲渡で、運送業許可の新規取得に6ヶ月を要し、その間営業停止。売上6ヶ月分の損失が発生。株式譲渡を選択していれば回避できた失敗。
株式譲渡・事業譲渡の手法選択チェックリスト
株式譲渡を選ぶべきチェック項目
- 売り手の税負担を最小化したい(20.315%税率)
- 許認可が重要な業種(建設・運送・薬局など)
- 従業員数が10名以上
- 取引先・契約が多い
- 会社全体を譲渡したい
- 手続きをシンプルにしたい
事業譲渡を選ぶべきチェック項目
- 事業の一部だけ売却したい
- 簿外債務リスクが懸念される会社
- 個人事業主の譲渡(法人格がない)
- 買い手にのれん償却の節税メリットを与えたい
- 赤字会社の黒字事業のみ切り出したい
- 許認可が不要な業種
よくある質問(FAQ)
Q. 株式譲渡と事業譲渡、どちらが多く採用されている?
A. 中小企業のM&Aの約7〜8割は株式譲渡。手続きの簡便さ・税負担の軽さ・許認可の継承などのメリットが大きいためです。
Q. 個人事業主のM&Aは可能?
A. 事業譲渡のみ可能。個人事業主には法人格がないため、株式譲渡はできません。法人化してからM&Aする選択肢もあります。
Q. 株式譲渡で簿外債務リスクを完全回避する方法は?
A. 表明保証条項の充実・徹底したDD・補償条項の設置が必須。100%回避は困難ですが、リスクを大幅に下げられます。
Q. 事業譲渡の消費税は誰が負担?
A. 買い手が消費税を負担するのが一般的。譲渡対価の10%が消費税として上乗せされます。ただし買い手側で仕入税額控除できる場合があります。
Q. 株式譲渡で経営者保証を解除する方法は?
A. 経営者保証ガイドラインの活用で、新オーナーへの保証切り替え交渉が可能。最近は無保証承継も増えています。
まとめ|株式譲渡 vs 事業譲渡の選択は税務・実務両面の慎重な検討が必須
株式譲渡と事業譲渡の選択は、M&Aの成否を左右する最重要決断です。税務面では売り手は株式譲渡有利・買い手は事業譲渡有利という利害対立があり、互いの落としどころを見つける交渉が必要です。
あなたのM&Aを成功させるための3つの行動はこちらです。
- 業種・状況に応じた最適手法の判断:許認可・従業員数・税負担を総合考慮
- 顧問税理士・M&Aアドバイザーへの相談:税務シミュレーションの実施
- 表明保証・DDの徹底:簿外債務リスクの回避策
M&A手法の選択は、専門知識が必要な複雑な意思決定です。早めに専門家に相談することで、税負担の最小化・リスクの回避・スムーズな承継が実現します。
関連記事
- 事業価値評価(バリュエーション)の3つの算定方法(売却価格の算定)
- デューデリジェンス(DD)とは?(買収監査の進め方)
- 事業承継税制とは?贈与税・相続税が実質ゼロ(税制活用)
- 事業承継と経営者保証の解除方法(保証問題)
- 製造業の事業承継|技術伝承とM&A成功のコツ(業種別事例)
- 建設業の事業承継|建設業許可の引き継ぎ(許認可継承の実例)
- 事業承継完全ガイド|全43テーマを網羅(事業承継のすべて)
- 会社分割の活用法|事業承継・グループ再編・節税スキーム完全ガイド(M&A手法の応用編)
- M&Aの「のれん」完全ガイド|計算方法・償却・節税効果・減損リスク(M&A会計・税務)