事業承継税制とは?特例措置の仕組み・要件・期限をわかりやすく解説
「息子に会社を引き継ぎたいけど、株の評価額が思った以上に高くて、贈与税が払えない」
「相続のとき、自社株にかかる税金で会社の資金繰りが悪くならないか不安」
親族や従業員に事業を承継するとき、多くの経営者が直面するのが税金の問題です。
非上場企業の株式は、業績がよい会社ほど評価額が高くなります。その結果、株式を後継者に渡すだけで数千万円〜数億円の贈与税や相続税が発生するケースも珍しくありません。
こうした問題を解決するために設けられたのが「事業承継税制」です。
この記事では、事業承継税制の仕組み、特例措置の内容、適用要件、メリットとデメリット、そして期限について、初めての方にもわかりやすく解説します。
📌 この記事でわかること
- 事業承継税制の基本的な仕組み(納税猶予と免除)
- 「一般措置」と「特例措置」の違い
- 特例措置の適用要件と手続きの流れ
- メリット・デメリットと注意点
- 特例承継計画の提出期限と今後のスケジュール
事業承継税制とは?——贈与税・相続税が猶予される制度
事業承継税制とは、後継者が先代経営者から非上場企業の株式を贈与や相続で取得したとき、本来かかる贈与税・相続税の納税が猶予され、一定の条件を満たすと最終的に免除される制度です。
「猶予」と「免除」の違い
混同しやすいので整理しておきましょう。
- 納税猶予:税金の支払いを「待ってもらう」こと。いずれ支払いが必要になる可能性がある
- 納税免除:税金の支払いが「なくなる」こと。支払いは不要
事業承継税制では、まず納税猶予が始まり、後継者が一定の要件を満たし続けることで、最終的に免除されるという二段階の仕組みになっています。
なぜこの制度があるのか
中小企業庁の調査によると、全国の後継者不在率は53.9%に達しています(帝国データバンク、2024年)。後継者がいても、株式の承継にかかる税負担が障壁となって事業承継が進まないケースが少なくありません。
こうした状況を改善し、中小企業の円滑な世代交代を促すために、2009年に事業承継税制が創設されました。
「一般措置」と「特例措置」——2つの制度を比較
事業承継税制には一般措置と特例措置の2種類があります。2018年度の税制改正で、従来の一般措置を大幅に拡充した特例措置が時限的に創設されました。
| 項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 対象株式 | 発行済株式の2/3まで | 全株式 |
| 納税猶予割合(贈与税) | 100% | 100% |
| 納税猶予割合(相続税) | 80% | 100% |
| 後継者の人数 | 1人 | 最大3人 |
| 雇用確保要件 | 5年平均で8割維持が必須 | 実質撤廃 |
| 事前計画の提出 | 不要 | 特例承継計画の提出が必要 |
| 適用期限 | なし(恒久措置) | 2027年12月31日まで |
この比較を見れば一目瞭然ですが、特例措置のほうが圧倒的に有利です。
たとえば株式評価額が1億円の場合、一般措置では対象株式が2/3に制限され、相続税の猶予割合も80%のため、実質的に猶予される額は約5,300万円分。一方、特例措置なら1億円分がまるごと猶予されます。
特例措置の適用要件——誰が、どんな条件で使えるか
特例措置を利用するには、会社・先代経営者・後継者のそれぞれに要件があります。
会社の要件
- 中小企業であること(中小企業基本法の定義に基づく)
- 非上場企業であること
- 風俗営業会社に該当しないこと
- 資産管理会社に該当しないこと(一定の例外あり)
先代経営者(贈与者・被相続人)の要件
- 会社の代表者であったこと
- 贈与時点で代表者を退任していること(贈与の場合)
- 先代経営者と同族関係者で議決権の過半数を保有していたこと
後継者(受贈者・相続人)の要件
- 贈与の直前に役員であること(2025年改正で「3年以上」の要件が廃止)
- 贈与後に代表者であること
- 同族関係者の中で最も多くの議決権を保有すること
2025年度の税制改正で、それまで必要だった「贈与前3年以上の役員就任」という要件が撤廃されました。これにより、承継直前に役員に就任していれば要件を満たすことになり、準備のハードルが下がっています。
特例措置のメリット——使うとどれだけ得になるか
メリット①:贈与税・相続税が実質ゼロに
特例措置を使えば、自社株にかかる贈与税・相続税の全額が猶予されます。そのまま要件を満たし続ければ最終的に免除されるため、実質的な税負担はゼロになります。
メリット②:後継者を最大3人まで指定可能
一般措置では後継者は1人に限られますが、特例措置では最大3人まで対象にできます。兄弟での共同経営や、親族外の従業員への承継にも柔軟に対応できます。
メリット③:雇用維持要件が実質撤廃
一般措置では「承継後5年間で平均8割の雇用を維持」しなければ猶予が取り消されるという厳しい要件がありました。特例措置ではこの要件が実質的に撤廃され、雇用が8割を下回っても、理由報告書と認定支援機関の所見を提出すれば猶予が継続されます。
メリット④:納税資金を事業投資に回せる
本来納めるはずだった税金を猶予してもらえるため、その分の資金を設備投資や運転資金に充てることができます。承継直後の不安定な時期に、資金繰りの余裕が生まれるのは大きなメリットです。
特例措置のデメリットと注意点——安易な活用は危険
メリットばかりに目が向きがちですが、注意すべきデメリットもあります。
デメリット①:取り消されると猶予税額+利子税を支払う
猶予期間中に取消事由に該当すると、猶予されていた税額に加えて利子税を上乗せして納付する必要があります。特に承継後5年以内は取消事由が厳しく設定されています。
主な取消事由(承継後5年以内)には以下があります。
- 後継者が代表者でなくなった
- 対象株式を譲渡した
- 会社が資産管理会社に該当した
- 会社が解散した
デメリット②:継続的な報告義務がある
承継後5年間は毎年、都道府県庁と税務署に報告書・届出書を提出する必要があります。6年目以降は3年に1回に減りますが、手続きを怠ると猶予が取り消されるため、長期にわたる管理が求められます。
デメリット③:制度が複雑で専門家のサポートが不可欠
事業承継税制の手続きは多岐にわたり、自社だけで対応するのは現実的ではありません。認定支援機関(税理士・公認会計士など)の指導を受けながら進めるのが前提です。
手続きの流れ——5つのステップで全体像をつかむ
特例措置を利用する場合の基本的な流れは次のとおりです。
ステップ1:特例承継計画の作成・提出
認定経営革新等支援機関(税理士など)の指導を受けて計画を作成し、都道府県庁に提出して確認を受けます。
ステップ2:株式の贈与または相続の実行
先代経営者から後継者へ株式を移転します。贈与の場合は時期をコントロールできるため、計画的に進められます。
ステップ3:都道府県庁への認定申請
贈与・相続の後、都道府県庁に認定申請を行います。審査には通常2ヶ月ほどかかります。
ステップ4:税務署への申告
認定書を添付して、贈与税または相続税の申告を行います。
ステップ5:継続届出・報告の提出
承継後5年間は毎年、都道府県庁と税務署に報告書を提出。6年目以降は3年に1回、税務署への届出を継続します。
特例承継計画の提出期限——残り時間はわずか
特例措置を使うために絶対に外せないのが「特例承継計画」の提出です。
2つの期限を押さえよう
| 期限 | 内容 |
|---|---|
| 2026年3月31日 | 特例承継計画の提出期限(現行法) |
| 2027年12月31日 | 贈与・相続の実行期限(法人版) |
特例承継計画の提出期限は、過去に2度延長されてきました。令和8年度税制改正大綱では2027年9月末までの再延長が示されていますが、適用期限(2027年12月末)は延長しないと政府が明言しています。
つまり、「いずれ延長されるだろう」と楽観視していると、制度自体が使えなくなるリスクがあります。
まだ後継者が決まっていなくても計画は出せる
特例承継計画は「検討段階」でも提出できます。後継者候補の名前を記載する必要はありますが、提出後に変更することも可能です。
特例措置の権利を確保するためにも、まずは計画だけでも提出しておくことを強くおすすめします。計画作成には認定支援機関との面談や書類準備で1〜3ヶ月ほどかかるため、早めの着手が大切です。
どちらの措置を選ぶべきか
結論から言えば、期限内であれば特例措置が圧倒的に有利です。猶予割合100%、全株式対象、雇用要件の緩和など、すべての面で一般措置を上回ります。
ただし、特例措置は2027年末までの時限制度です。検討中の方は早めに行動しましょう。まずは特例承継計画の提出から始めてください。
まとめ
事業承継税制は、後継者の税負担を大幅に軽減する強力な制度です。特例措置と一般措置の違いを理解し、自社に最適な選択をしましょう。
制度の適用には専門知識が不可欠です。早めに税理士に相談し、計画的に進めることをおすすめします。
まとめ
この記事では、事業承継税制の仕組みと特例措置について解説しました。
ポイントをおさらいすると:
- 事業承継税制は、自社株の贈与税・相続税が猶予・免除される制度
- 特例措置なら全株式が対象で、税負担を実質ゼロにできる
- 2025年の改正で役員就任要件が緩和され、使いやすくなった
- ただし取消リスクや継続報告義務など、デメリットも理解が必要
- 特例承継計画の提出期限が迫っており、早めの準備が不可欠
事業承継税制は非常に強力な制度ですが、制度が複雑なため、必ず税理士や認定支援機関に相談しながら進めてください。
「使うかどうか迷っている」という段階でも、まずは特例承継計画だけでも提出しておくことで、将来の選択肢を広げることができます。
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