後継者がいないときの4つの選択肢|廃業だけが道じゃない
「継いでくれる人がいない」——その悩み、あなただけではありません
「子どもは会社を継ぐ気がないみたいだ」 「社内を見渡しても、後継者になれそうな人が思い浮かばない」 「このままだと廃業するしかないのかな……」
もし今、こんなふうに思っているとしたら、まず知っておいてほしいことがあります。
同じ悩みを抱えている経営者は、あなたの想像以上にたくさんいるということ。そして、「後継者がいない=廃業」ではないということです。
帝国データバンクの2024年調査によると、全国の企業のうち後継者が「いない」または「未定」の割合は52.1%。実に2社に1社が、あなたと同じ状況に立っています。
この記事では、後継者がいないときに取りうる4つの選択肢を、それぞれのメリット・デメリットとともに丁寧にご紹介します。「まだどうするか決められない」という段階の方にこそ、読んでいただきたい内容です。
📌 この記事でわかること
- 後継者不在の現状と、放置した場合のリスク
- 後継者がいないときの4つの選択肢とそれぞれの特徴
- 「廃業」を選ぶ前に考えておきたいこと
- 無料で相談できる公的支援の窓口
まず知っておきたい——後継者不在のリアルな現状
具体的な選択肢を見る前に、いまの日本で後継者問題がどれほど深刻か、少しだけデータを見ておきましょう。
帝国データバンクの調査(2024年)によると、後継者不在率は52.1%。7年連続で改善はしているものの、まだ半数以上の企業で後継者が決まっていません。
そして見過ごせないのが、後継者がいないことが原因で倒産した「後継者難倒産」。2024年度は507件にのぼり、過去2番目の高水準でした。黒字経営であっても、後継者が見つからなければ会社を畳まざるを得ない——そんなケースが実際に起きています。
中小企業庁の試算では、このまま事業承継が進まなければ約650万人の雇用が失われ、GDPにして約22兆円の経済的損失が生じる可能性があるとされています。
数字だけ見ると途方に暮れてしまいそうですが、裏を返せば、この問題に対して国や支援機関が本気で動いているということでもあります。「助けてくれる人がいない」ということは、決してありません。
後継者がいないときの4つの選択肢
後継者がいないとき、経営者が取りうる道は大きく4つあります。
| 選択肢 | ひとことで言うと |
|---|---|
| ① 親族内承継を再検討する | 家族にもう一度、可能性を探る |
| ② 従業員承継を検討する | 信頼できる社員に託す |
| ③ M&A(第三者承継) | 社外のパートナーに引き継ぐ |
| ④ 廃業 | 自分の代で会社を閉じる |
「うちにはどれも当てはまらない」と感じるかもしれません。でも、一つずつ丁寧に見ていくと、思いがけない可能性が見えてくることがあります。順番に見ていきましょう。
選択肢①:親族内承継を再検討する
「継がない」の裏側にある気持ち
「子どもに継ぐ意思がない」と一度は諦めた方も、もう少しだけ立ち止まって考えてみませんか?
お子さんが「継ぎたくない」と言う理由は何でしょうか。調査によると、後継者候補が承継をためらう理由として多いのは、「事業の将来性への不安」「自分の経営能力への不安」「借入金や個人保証の負担」といったものです。
つまり、「会社が嫌い」ではなく、「不安がある」というケースが少なくないのです。
もし不安が原因なら、その不安を取り除くことで状況が変わる可能性があります。たとえば、経営改善に取り組んで会社の将来性を高める。後継者教育のプログラムに参加してもらう。経営者保証の解除を金融機関と交渉する——こうした働きかけによって、お子さんの気持ちが変わった事例は珍しくありません。
親族内承継のメリット・デメリット
メリット
- 社内外の関係者から受け入れられやすい
- 相続・贈与で株式を移転でき、経営と所有を一体的に引き継げる
- 事業承継税制を活用すれば税負担を大幅に軽減できる
デメリット
- 親族だからといって経営の適性があるとは限らない
- 相続人が複数いる場合、遺産分割でトラブルになるリスクがある
- 後継者育成に5〜10年の長い時間がかかる
大切なのは、「まだ正式に話し合っていないなら、一度きちんと対話の場を持つ」ことです。案外、お互いが遠慮し合っているだけかもしれません。
選択肢②:従業員承継を検討する
「身内じゃなくていい」という発想の転換
親族に後継者がいなくても、社内に目を向けてみてください。長年あなたのそばで働いてきた役員や幹部社員の中に、経営を任せられる人材がいるかもしれません。
実際、帝国データバンクの2024年調査では、「内部昇格(従業員承継)」が36.4%で、初めて親族内承継(32.2%)を上回りました。いまや従業員承継は、もっともメジャーな承継方法になりつつあります。
従業員承継のメリット・デメリット
メリット
- 事業の内容をよく知っている人に任せられる安心感
- 社内の人間関係や取引先との関係が引き継がれやすい
- 経営方針の継続性を保ちやすい
デメリット
- 株式を買い取るための資金調達が大きなハードル
- 経営者の個人保証を引き継ぐ負担
- 「従業員」から「経営者」への意識の転換が難しいことがある
資金面の課題は確かに大きいのですが、近年は日本政策金融公庫の融資制度や事業承継ファンドなど、サポートの選択肢が広がっています。「お金がないから無理」と決めつける前に、専門家に相談してみる価値は十分にあります。
外部から経営者を招聘する方法も
従業員の中に適任者がいない場合、社外からプロ経営者を招くという選択肢もあります。「後継者人材バンク」(事業承継・引継ぎ支援センターが運営)では、経営意欲のある個人と後継者不在の企業をマッチングする仕組みがあります。
選択肢③:M&A(第三者承継)——社外のパートナーに託す
「会社を売る」ことは、後ろめたいことじゃない
M&Aに対して、「身売り」「乗っ取り」といったネガティブなイメージを持っている方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。
でも、いまの中小企業のM&Aは、そういったものとはまったく違います。「後継者がいない会社の技術や雇用を守りたい」「自社の事業を成長させてくれるパートナーを探したい」——そんな前向きな理由から行われるM&Aが主流です。
中小企業庁のデータでは、M&Aによる第三者承継の割合は2024年に20.5%まで増加しています。個人が小規模な事業を買い取る「スモールM&A」も年々増えており、かつてのように大企業だけのものではなくなっています。
M&Aのメリット・デメリット
メリット
- 親族にも社内にも後継者がいなくても、会社を存続させられる
- 株式の売却で経営者はまとまった売却益を得られる
- 買い手の経営資源と組み合わせることで、会社がさらに成長する可能性がある
デメリット
- 希望する条件に合う買い手が見つかるとは限らない
- 交渉がうまくいかず、破談になるリスクがある
- 社風や企業理念が変わってしまう可能性がある
- 仲介手数料などのコストがかかる
M&Aの大まかな流れ
- 仲介会社・アドバイザーに相談する
- 自社の企業価値を算定する
- 匿名の情報(ノンネームシート)で買い手候補を探す
- 経営者同士が面談し、お互いのビジョンを確認する
- 基本合意→デューデリジェンス(詳細調査)→最終契約
「うちみたいな小さな会社に買い手なんているのかな」と思うかもしれません。でも、あなたの会社が持つ技術力、顧客基盤、許認可、立地——そうしたものに大きな価値を感じる相手がいる可能性は、十分にあります。
まずは一度、事業承継・引継ぎ支援センターやM&A仲介会社に話を聞いてみてください。相談だけなら無料ですし、「売る」と決める必要もありません。自社の価値を客観的に知るだけでも、視界が開けることがあります。
選択肢④:廃業——最後の選択肢として
廃業は「失敗」ではない
4つの選択肢をすべて検討した結果、「自分の代で会社を閉じる」という判断に至ることもあるでしょう。
廃業と聞くと、どうしてもネガティブな印象がありますが、きちんと計画を立てて円満に廃業することは、決して恥ずかしいことではありません。従業員の再就職先を確保し、取引先への影響を最小限に抑え、債務を整理して——そうした「責任ある廃業」は、経営者としての立派な最後の仕事です。
廃業を選ぶ前に確認してほしいこと
ただし、廃業を決断する前に、以下の点だけは確認しておいてほしいのです。
■ 他の選択肢を本当に検討しましたか?
「後継者がいない=廃業」と思い込んでいませんか? M&Aや従業員承継、外部人材の招聘など、まだ検討していない道があるかもしれません。
■ 専門家に相談しましたか?
事業承継・引継ぎ支援センターに相談したところ、思いがけずM&Aの相手が見つかった——そんな事例は実際に数多くあります。
■ 従業員への影響を考えましたか?
廃業は、従業員とその家族の生活に直結します。会社を存続させる方法が本当にないのか、もう一度だけ確認してみてください。
廃業にかかるコスト
廃業にも意外とお金がかかります。設備の処分費用、テナントの原状回復、従業員の退職金、税務申告——こうした費用を合計すると、想像以上の金額になることも。廃業のコストとM&Aによる売却益を比較すると、M&Aのほうが経済的にプラスになるケースも少なくありません。
4つの選択肢を比べてみよう
| 比較項目 | 親族内承継 | 従業員承継 | M&A | 廃業 |
|---|---|---|---|---|
| 会社の存続 | ○ | ○ | ○ | × |
| 従業員の雇用維持 | ○ | ○ | △(条件による) | × |
| 経営者の売却益 | なし | なし | あり | なし |
| 準備期間の目安 | 5〜10年 | 3〜5年 | 半年〜2年 | 数ヶ月〜1年 |
| 経営理念の維持 | ○ | ○ | △ | — |
| 主なコスト | 相続税・贈与税 | 株式買取資金 | 仲介手数料 | 処分・清算費用 |
どの道を選ぶにしても、共通して大切なのは「早めに動くこと」と「一人で抱え込まないこと」です。
頼れる相談先——無料で使える公的支援
「どこに相談すればいいかわからない」という方のために、無料で利用できる主な相談先をまとめました。
事業承継・引継ぎ支援センター
全国47都道府県に設置されている公的な相談窓口です。親族内承継・従業員承継・M&Aのすべてに対応しており、後継者人材バンクによるマッチング支援も行っています。相談は無料で、秘密厳守です。
よろず支援拠点
中小企業のあらゆる経営相談に対応する無料の相談窓口です。事業承継に限らず、経営改善や販路開拓なども相談できます。
商工会・商工会議所
地域密着型のサポートが強みです。事業承継だけでなく、日常の経営課題についても気軽に相談できます。
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継やM&Aをきっかけに新しい取り組みを行う場合、経費の一部を補助してもらえる制度です。M&Aの仲介手数料なども補助対象になることがあります。
「まだ何も決めていないけど、一度話を聞いてみたい」——その段階で相談して大丈夫です。むしろ、早い段階で相談するほど選択肢が広がります。
まとめ
この記事では、後継者がいないときに取りうる4つの選択肢をご紹介しました。
もう一度おさらいしておきましょう。
- 親族内承継を再検討する — お子さんの「不安」を取り除けば、可能性が開けることも
- 従業員承継を検討する — いまや最も多い承継方法。社内に適任者がいないか見直してみて
- M&A(第三者承継) — 社外のパートナーに会社を託す。「売る」は前向きな選択
- 廃業 — 他の道をすべて検討した上での、最後の選択肢
「後継者がいない」という現実は、たしかに重い課題です。でも、それは「終わり」ではありません。
あなたが何十年もかけて育ててきた会社には、技術があり、お客さまがいて、一緒に働いてくれる仲間がいます。その価値は、あなたが思っている以上に大きいはずです。
まずは一歩、相談窓口のドアを叩いてみてください。きっと、一緒に道を探してくれる人がいます。
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参考情報:
- 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2024年)」(2024年11月発表)
- 帝国データバンク「後継者難倒産の動向調査(2024年度)」
- 中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(令和4年3月改訂)
- 中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」