事業承継の流れを5つのステップで解説【はじめてでも安心】
「事業承継が大事なのはわかった。でも、どう進めればいいの?」
前回の記事で事業承継の全体像をつかんでいただいた方も、いざ「じゃあ動こう」と思うと、何からどう手をつければいいのか迷ってしまいますよね。
ご安心ください。実は、中小企業庁が「こう進めるといいですよ」というロードマップをちゃんと用意してくれています。それが、事業承継ガイドラインに示された「5つのステップ」です。
この記事では、その5ステップを一つひとつかみ砕いてご説明します。「うちはまだ何も始めていない」という方も大丈夫。この記事を読み終えたら、きっと「まずはここから始めてみよう」と思える——そんな内容を目指しました。
📌 この記事でわかること
- 事業承継の全体の流れ(5ステップの概要)
- 各ステップで「具体的に何をすればいいのか」
- 親族内承継とM&Aで異なるステップ4の進め方
- 承継後に会社をさらに成長させるためのヒント
- 早めに動き出すことがなぜ大切なのか
事業承継のスケジュール|いつから何を始める?
事業承継は一般的に5年〜10年の準備期間が必要です。「まだ早い」と思っているうちに手遅れになるケースが少なくありません。以下の年数別スケジュールを参考に、自社の状況と照らし合わせてみてください。
| 時期 | フェーズ | やるべきこと |
|---|---|---|
| 10年前〜 | 意識づけ | 事業承継の必要性を認識、情報収集を開始、身近な相談先(商工会議所など)に相談 |
| 5年前〜 | 後継者選定 | 後継者の候補を決める、後継者育成プランの策定、会社の「見える化」に着手 |
| 3年前〜 | 計画策定 | 事業承継計画の策定、税理士・弁護士との連携、株式移転・資産整理の検討 |
| 1年前〜 | 最終準備 | 関係者への公表、経営権の段階的移転、各種届出の準備 |
| 承継後 | フォロー | 後継者のサポート、取引先・金融機関との関係維持、先代の役割を明確化 |
フェーズ1:承継10年前〜|意識づけと情報収集
経営者が50代に入ったら、事業承継について考え始める時期です。この段階では、具体的な行動よりも「意識づけ」と「情報収集」が中心になります。
まずは事業承継の基本的な知識を身につけましょう。親族内承継・従業員承継・M&Aの3つの方法があることを理解し、自社にとってどの選択肢が現実的かを漠然とでもイメージしておきます。
また、自社の経営状態や財務状況を客観的に把握しておくことも重要です。「会社の強みは何か」「後継者候補は誰か」「自社株の評価額はどの程度か」といった問いに向き合い始めるのがこの時期です。
フェーズ2:承継5年前〜|後継者の選定と育成開始
承継の5年前からは、具体的な準備に入ります。このフェーズが事業承継の成否を左右する最も重要な期間です。
後継者の選定と意思確認が最優先です。親族内承継であれば、候補となる子どもや親族と率直に話し合い、本人の意思を確認します。従業員承継の場合は、幹部社員への打診と意思確認を行います。後継者が社外にいない場合は、M&Aの検討も始めましょう。
後継者の育成も本格的にスタートします。社内の各部門を経験させる、重要プロジェクトの責任者に据える、経営会議に参加させるなど、経営者としてのスキルを磨く機会を意識的に作ります。
並行して、専門家への相談も始めましょう。顧問税理士への相談、事業承継・引継ぎ支援センターへの訪問、自社株の評価の依頼など、専門的な準備の土台を作ります。
フェーズ3:承継3年前〜|事業承継計画の策定と実行
承継3年前からは、事業承継計画書を策定し、計画に基づいた具体的なアクションを実行していきます。
事業承継計画書には、承継の時期、後継者、株式の移転方法、税金対策のスケジュール、関係者への周知計画などを盛り込みます。計画書の作成は事業承継の5ステップの中でも特に重要な工程です。
具体的には、事業承継税制の特例承継計画の提出(期限:2026年3月末)、遺言書の作成や遺留分対策、自社株の評価引き下げ対策、補助金・支援制度の活用検討など、専門家と連携しながら進めていきます。
従業員や取引先、金融機関に対して後継者を紹介し始めるのもこの時期です。急な発表は関係者に不安を与えるため、段階的に周知していくのがポイントです。
フェーズ4:承継1年前〜|最終準備と経営権の移転
承継の直前には、経営権の移転に向けた最終準備を行います。
親族内承継・従業員承継の場合は、代表取締役の変更、株式の最終的な移転手続き、個人保証の切り替え交渉、各種届出(税務署・金融機関・取引先への通知)を進めます。
M&Aの場合は、このフェーズでマッチングサイトや仲介会社を通じた買い手との交渉、デューデリジェンス(買収監査)、最終契約の締結を行います。
いずれの場合も、後継者への業務引き継ぎを最終チェックし、取引先や金融機関との関係を後継者に引き継ぐための挨拶回りも行いましょう。
フェーズ5:承継後|モニタリングとフォロー
経営権が移転した後も、事業承継は終わりではありません。承継後の1〜3年間は特に注意が必要な時期です。
前経営者は会長や顧問として一定期間サポートに入るのが一般的ですが、あくまで後継者の自立を最優先に考えましょう。口出しをしすぎると従業員が前経営者の指示を仰ぐようになり、後継者の権威が損なわれます。
M&Aの場合は、PMI(統合プロセス)が承継後の最大の課題です。従業員の処遇、企業文化の融合、業務プロセスの統合などを丁寧に進めることが、承継の成果を左右します。
事業承継税制を利用している場合は、承継後も5年間の事業継続要件を満たす必要があります。申告や届出の期限管理も忘れずに行いましょう。
スケジュールを遅らせないための3つのポイント
①「まだ早い」と思った今が始めどき。事業承継は早すぎることはありません。60代になってから始めると、後継者の育成期間が十分に取れず、妥協せざるを得なくなります。
②一人で抱え込まない。事業承継は経営者だけの問題ではありません。家族、後継者候補、従業員、そして専門家を早い段階から巻き込むことで、スムーズに進みます。
③計画を「見える化」する。頭の中で考えているだけでは進みません。事業承継計画書を作成し、やるべきことと期限を明文化することが、スケジュール通りに進める最大のコツです。
この全体のスケジュール感を頭に入れたうえで、以下の5つのステップを一つずつ見ていきましょう。
事業承継の5ステップとは?——まずは全体像をつかもう
中小企業庁が策定した「事業承継ガイドライン(第3版)」では、事業承継を以下の5つのステップで進めることが推奨されています。
| ステップ | やること | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| ステップ1 | 準備の必要性を認識する | 「そろそろ考えなきゃ」と気づく |
| ステップ2 | 経営状況・課題を把握する | 会社の「いま」を見える化する |
| ステップ3 | 経営改善に取り組む | 会社を「磨き上げ」る |
| ステップ4 | 承継計画を立てる / M&Aを進める | 具体的な計画をつくる |
| ステップ5 | 事業承継を実行する | いよいよバトンタッチ |
「5つもあるのか…」と感じるかもしれませんが、一気にやる必要はまったくありません。一般的に、事業承継の準備には3年〜10年かかると言われています。大切なのは「完璧にやること」ではなく、「少しずつでも前に進むこと」です。
では、一つずつ見ていきましょう。
ステップ1:準備の必要性を認識する
「まだ早い」が一番のリスク
事業承継の第一歩は、意外かもしれませんが「準備が必要だと気づくこと」そのものです。
多くの経営者が「まだ元気だから」「日々の経営で手一杯」とおっしゃいます。そのお気持ちはとてもよくわかります。毎日会社を動かすのに精一杯で、10年先のことなんて考えている余裕がない——それが中小企業のリアルですよね。
でも、日本の中小企業の社長の平均年齢は60.7歳。34年連続で上昇を続けています。体調を崩したり、急に判断力が落ちたりするリスクは、年齢とともに確実に高まります。「まだ先の話」と思っているうちに、選択肢がどんどん狭まってしまうこともあるのです。
ステップ1でやること
- 「事業承継は自分の代で向き合うべきテーマだ」と認識する
- 身近な相談先(商工会議所、事業承継・引継ぎ支援センターなど)に一度話を聞いてみる
- 中小企業庁の「事業承継診断票」でセルフチェックしてみる
「相談したら、もう後戻りできないのでは?」と心配される方もいらっしゃいますが、そんなことはありません。まずは情報収集だけでも大丈夫です。相談は無料ですし、秘密はしっかり守られます。
ステップ2:経営状況・課題を把握する(見える化)
会社の「今の姿」を正直に見つめる
次のステップは、自社の経営状況を正確に把握する「見える化」です。
長年経営をしてきた方にとっては、「自分の会社のことは自分が一番よくわかっている」と感じるかもしれません。でも、事業承継の場面では、頭の中にある知識だけでは足りないことが多いのです。
たとえば、こんなことはありませんか?
- 主要な取引先との関係が、社長個人の人脈に頼っている
- 重要な業務のやり方が、特定の社員の頭の中だけにある
- 自社株の評価額を正確に把握していない
- 会社の借入金に、経営者個人が連帯保証をしている
これらを一つひとつ「見える化」することで、後継者に引き継ぐときに何が課題になるかが見えてきます。
ステップ2でやること
① 経営の見える化
- 会社の強みと弱みを書き出す
- 事業の将来性を客観的に評価する
- 商品力・開発力・利益構造を見直す
② 財務の見える化
- 資産・負債の状況を整理する
- 自社株の評価額を試算する(税理士に依頼するのがおすすめ)
- 経営者の個人保証の有無を確認する
③ 知的資産の見える化
- 経営理念や暗黙のノウハウを言語化する
- 取引先・顧客との関係性をリスト化する
- 人材の状況(キーパーソンは誰か)を整理する
中小企業庁が用意している「ローカルベンチマーク」や「事業価値を高める経営レポート」といったツールを使うと、見える化がぐっとスムーズに進みます。一人でやるのが大変なら、顧問の税理士さんや商工会議所に手伝ってもらうのもいい方法です。
ステップ3:経営改善に取り組む(磨き上げ)
「いい状態でバトンを渡す」という愛情
事業承継は、会社をそのまま渡すだけではもったいない——中小企業庁のガイドラインは、経営者交代をチャンスととらえ、承継前に会社を「磨き上げ」ることを勧めています。
考えてみれば、自然なことですよね。あなたが何十年もかけて育ててきた会社を、できるだけいい状態で次の世代に渡したい。それは、会社への愛情そのものだと思います。
磨き上げの具体例
① 業績の改善
- 不採算部門の見直し、コスト削減
- 新規顧客の開拓、既存顧客との関係強化
- 利益率の改善
② 組織・体制の整備
- 業務マニュアルの整備(社長がいなくても回る仕組みづくり)
- 社内の役割分担を明確にする
- 後継者候補がいれば、段階的に権限を委譲していく
③ 財務面の改善
- 不要な資産の整理
- 借入金の圧縮
- 個人と会社の資産の分離
④ ガバナンスの整備
- 株主構成の整理(株式の分散を防ぐ)
- 取締役会の機能強化
- コンプライアンス体制の確認
ガイドラインの中に、こんな事例が紹介されています。ある経営者が事業の赤字を改善し、借入金の圧縮に取り組んだところ、それまで消極的だった後継者(息子さん)が「自分も頑張りたい」と承継を決意した——磨き上げが後継者の背中を押した好例です。
ステップ4:承継計画の策定 / M&Aの実施
このステップでは、「誰に」「どうやって」引き継ぐかによって進め方が変わります。
ステップ4-1:親族内承継・従業員承継の場合——事業承継計画を策定する
親族や従業員に引き継ぐ場合は、「事業承継計画」を作成します。これは、中長期の経営計画に「いつ」「何を」「どうやって引き継ぐか」を盛り込んだものです。
事業承継計画に含める主な内容:
- 後継者の選定と育成スケジュール
- 株式・資産の移転方法とスケジュール
- 関係者(従業員・取引先・金融機関)への説明計画
- 税務対策(相続税・贈与税のシミュレーション)
- 経営者保証の解除に向けた対応
計画は、後継者や親族、そして専門家と一緒に作ることが大切です。法律で定められたフォーマットはありませんが、中小企業庁が計画表のひな形を公開していますので、それを参考にするとスムーズです。
「計画を作る」と聞くと、堅苦しく感じるかもしれません。でも、要は「どんな順番で、何を進めていくか」を紙に書き出す作業です。書き出すことで頭の中が整理され、「次に何をすればいいか」が見えてきます。
ステップ4-2:M&A(第三者承継)の場合——マッチングと交渉を進める
親族にも社内にも適任者がいない場合は、外部のパートナーを探すM&Aのプロセスに入ります。
M&Aの基本的な流れ:
- 仲介会社・アドバイザーへの相談 — まずは専門家に現状を伝える
- 企業価値の算定 — 自社がいくらで売れるのか、目安を知る
- ノンネームシート作成 — 会社名を伏せた匿名の情報で買い手候補を募る
- 買い手候補との面談 — 経営理念や承継後のビジョンをすり合わせる
- 基本合意書の締結 — 大枠の条件で合意する
- デューデリジェンス — 買い手が財務・法務・税務などを詳細に調査する
- 最終契約・クロージング — 正式契約を結び、経営権を移転する
M&Aというと大げさに聞こえるかもしれませんが、近年は中小企業同士の「スモールM&A」も増えています。「自分の会社なんて売れるのだろうか」と思う方も多いのですが、あなたの会社が持つ技術や顧客基盤に、大きな価値を感じる買い手がいるかもしれません。まずは一度、専門家に相談してみることをおすすめします。
ステップ5:事業承継を実行する
いよいよ、バトンタッチの日
ステップ1〜4で積み上げてきた準備をもとに、いよいよ事業承継を実行します。
親族内承継・従業員承継の場合:
- 株式の贈与・譲渡を実行
- 代表取締役の交代(株主総会決議→役員変更登記)
- 経営者保証の解除手続き
- 取引先・金融機関への挨拶と説明
- 税務申告(贈与税・相続税など)
M&Aの場合:
- 最終契約(株式譲渡契約書等)の締結
- クロージング(代金の支払いと株式の引き渡し)
- 経営統合の実施(PMI:Post Merger Integration)
どちらの場合も、承継を「実行して終わり」ではありません。むしろ、承継後の数年間こそ、後継者が最も苦労する時期です。先代経営者がしばらくサポートに回ったり、専門家のアドバイスを受け続けたりすることで、新体制がスムーズに軌道に乗ります。
承継のあとにも大切なこと——「ポスト事業承継」
事業承継ガイドラインでは、承継後の「ポスト事業承継」にも触れています。
事業承継は、会社が新しいステージに進むためのチャンスでもあります。実際、中小企業白書のデータでは、経営者が若いほど経常利益率が高い傾向があるという結果が出ています。新しい経営者が新しい視点で事業に取り組むことで、会社がさらに成長する可能性があるのです。
後継者にとっても、先代が築いた土台の上に、自分の色を加えていくのはワクワクすること。事業承継は「終わり」ではなく、「新しい始まり」なのだと思います。
5ステップに取り組むうえで大切な3つのこと
最後に、5つのステップ全体を通して心がけたいことを3つだけお伝えします。
① とにかく「早め」に始める
事業承継の準備には、一般的に3年〜10年かかります。後継者の育成だけでも5年以上は見ておきたいところ。経営者の平均引退年齢が70歳前後であることを考えると、60歳くらいには準備を始められると理想的です。
でも、「もう60歳を過ぎてしまった」という方も、どうか焦らないでください。今日気づいたこの瞬間が、あなたにとって一番早いタイミングです。
② 一人で抱え込まない
事業承継には、税務・法務・財務など、さまざまな専門知識が必要になります。すべてを一人でやろうとする必要はありません。
事業承継・引継ぎ支援センター(各都道府県に設置・無料)、商工会議所、顧問の税理士さん——頼れる人はたくさんいます。「助けを借りること」は、弱さではなく、経営者としての賢い判断です。
③ 後継者と「対話」を重ねる
承継がうまくいくかどうかは、結局のところ「人と人の関係」に尽きます。後継者候補がいる場合は、早い段階から率直に話し合い、お互いの考えをすり合わせることが何より大切です。
「まだ話すには早い」と思っていても、後継者の側は「いつか話があるのでは」と感じているかもしれません。最初の一言が一番難しいけれど、そこから先は、きっと思っているよりスムーズに進んでいくものです。
まとめ
この記事では、事業承継を進めるための5つのステップを解説しました。
もう一度、全体の流れを振り返っておきましょう。
- 準備の必要性を認識する — まず「向き合おう」と決める
- 経営状況・課題を把握する — 会社の「今」を見える化する
- 経営改善に取り組む — 承継前に会社を磨き上げる
- 承継計画を策定する / M&Aを進める — 具体的な道筋をつくる
- 事業承継を実行する — いよいよバトンタッチ
事業承継は、あなたがこれまで大切に育ててきた会社を、次の時代へつなぐ架け橋です。完璧な準備なんてなくていい。まずは「知ること」から始めて、一歩ずつ前に進んでいきましょう。
この記事が、あなたの「はじめの一歩」の支えになれたら嬉しいです。
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参考情報:
事業承継の税務相談なら
事業承継では、税理士選びが成功のカギを握ります。相続税・贈与税の対策、事業承継税制の活用、M&Aの税務デューデリジェンスなど、専門的な知識が必要な場面が多くあります。
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事業承継後の会計管理に
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